2021.08.31

広報しろたまり その23 足助産小麦への長い道のり2


(大多賀の仕込蔵となり、収穫直前の実験栽培小麦です)

3年ほど前だったか、豊田市農業委員会の会長さんから突然お電話をいただきました。
弊社足助仕込蔵の住所は、愛知県豊田市大多賀町になりますから、この方は地元の農業に関する事務を担当する行政委員会の代表者さんになります。

社長さん、あんた大多賀の農業の現状をどう思うね、農家の高齢化は進む一方で、とうとう去年から田植えをする農家が大多賀では一軒も無しになった。このままじゃ農地は草ぼうぼうで荒れ放題、やがて集落そのものが消えてしまうかもしれん。

これは恐らく、日本中の中山間地で起きている問題で、しかたないでは済ませられないことでしょう。

実はね、県内の別の地域だがね、遊休農地を地域で活用して酒米を作って、それを地元の酒蔵が買って酒を造るプロジェクトが、国の補助金事業で動いてると聞いてるんだわ。
どうだね、わしらが小麦を作ったらあんた買うかね。

本質は深刻な問題にもかかわらず、私はこの会長さんの話に、申し訳ないけどワクワクしてしまいました。それって、思いっきり地元産で、どんな人たちがどうやって作ったかわかる小麦で、しろたまりが作れるってこと?

喜んで買わせてもらいますと、即答です。
ただ、私も醤油屋の立場から今の小麦農政を見てきていますから、諸々乗り越えるべき問題があるだろうことは想像しながらです。

会長のプランを簡単にまとめると、
高齢化で農作業の担い手がいなくなり耕作放棄地となった足助地区の農地を借り受け、行政区の農業委員会で人手を集めて小麦を栽培し、地元企業が加工する地域の特産品の原材料として販売することで国の補助事業対象にもなり、中山間地の農地と集落を守ることにつながる壮大なプランです。
こんな仕事にかかわれるなんて、誰だってワクワクするでしょ!

まずは、大多賀の農家さんたちの意見を聞き、賛同者を募ること。
同時に、標高720mの高地では栽培実績のない愛知県の小麦の、品種別適正を調べる実験栽培をすること。
そのために必要な農地を借りることと、獣害対策用鉄柵を設置すること。
やることはいきなりいっぱい!笑

でも善は急げ、初年度で実験栽培を始めるべく準備を進めます。
必要な農地はいつもお世話になってる蔵の向かいの池野さんにお借りして、獣害対策用鉄柵は私が購入して設置は農業委員会さんにお願いし、実験用品種は愛知県品種から2種と、高地栽培向きと思われる長野県の品種を1種購入して、合計3種で麦蒔きをしました。

鉄柵の効果は抜群!
大多賀はこのころから鹿の被害が多く、弊社の素人小麦栽培も、もっぱら鹿のエサと化していましたが、まったく被害なく順調に育ち翌年6月に収穫、予想通り高地に向いた長野県の品種が最もいい状態で収量もいい結果となりました。

ごく少量の収穫でしたが愛知県食品技術センター様のご協力で製麹をしていただき、しろたまりとして仕込むテストまで実施、小規模テストで十分とは言えませんが、原料小麦として大きな問題はないことを確認します。

と、ここまではよかったのですが、
問題はここから、モノゴトはいつも、やっかいな壁を乗り越えないと前に進めないことになっているようです。つづきは次回に。