2021.09.13

広報しろたまり その24 足助産小麦への長い道のり3

その22でも書きましたが、この国では国産小麦を保護するために輸入小麦との価格調整の仕組みがあります。
そのおかげで我々需要者は、農家さんの出荷価格より安く国産小麦が買えるわけです。ただし、この仕組みを利用するためには農協さんを通さねばなりません。

たとえば日東醸造が、ある特定の農家さんと直接契約をして小麦を購入するとこの仕組みは使えず、それでもやろうとすれば調整費用を自分で負担する必要があり、現行の2~3倍ほどの購入価格になります。

また収穫された小麦は、乾燥、等級検査、保管など、通常は農協さんの施設や設備で諸々の工程を経ていきますが、農協さんを通さないと、これらもすべて自前で行うことになります。

それほどの力を持った農協さんから、今になって今回の計画には協力できないと言われてしまいました。理由は、我々が推進しようとした小麦品種が長野県の品種だから、愛知県の推奨品種以外は扱えないと。計画初期の実験段階では諸々の便宜を図ってくれていたのに、実現が近づいてきたら態度が変わったようです。

そもそも足助は中山間地、その中でも今回の対象地区、仕込蔵がある大多賀は標高が720mと足助内でも高地に属し、もともと平野部での栽培を想定した愛知県の品種では栽培が難しく収量も芳しくない。そのために隣県の長野県からシラネコムギという高地栽培実績のある品種を購入して実験してきました。

先日、農業委員会の会長から電話があり、ちょっと話があると急遽ご来社、何ごとかと思ったらこの件でした。

わしはこの足助が、いや中山間地の農地はみんなそうじゃが、若いもんは街へ出てって、残った年寄りは足腰が弱って百姓ができんくなって、ご先祖からの田畑が草ぼうぼうになっていくのを黙って見ておれんで、あんたにこの話を持ち掛けたんだわ。
わしだけじゃなく、他の農業推進委員たちも、だーれも自分のことなんて考えちゃおらん。高地でも安定した収量と品質があれば、農家もあんたもよし、わしらも目的が叶って三方よしだと思っとったが、それが通じんのだ。
いつも元気な人が、はじめて見せる落胆でした。

農協さんには農協さんの事情があるのでしょう、でも郷里のためにと会長さんたちが始めたことは、その事情のために諦めなきゃいけないことなのでしょうか。

会長、とにかく一歩でも前に進めましょう、収量が悪くても愛知県の品種にしたっていいし、いまさらシッポ巻いて諦めるなんて。それに、きっとそのうちに世の中の方が変わりますよ、会長のおっしゃっていることの方が大切だって、きっとわかってくれる人が出てきますよ。

私の何の根拠もない、慰めにもならない話を聞きながらそれでもうなずいて、だな、まだ諦めるわけにはいかん。愛知県の品種に変えて来年産はあんたが言うように2トンの小麦を作って、でっかい桶に仕込めるようにしよう、とにかくやろう。そう言って帰っていかれました。

収量が減った分だけコストがかかりますし、品質的に仕上がりのしろたまりにどんな影響があるのか、でもやってみればわかるでしょう。

大豆を使わないと醤油と表示できない、そう言われて、農水省本庁まで意見陳述に行ったものの、巨大な壁の前のアリのような自分を思い知ったあの時のことが思い出されました。

諦めないで自分に出来ることをやり続ける、そうやってここまで来たので、これからも協力してくださる方たちと自分の信じる仕事を続けます。